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広島地方裁判所 昭和62年(行ウ)7号 判決

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、原告に対し、昭和六〇年一月二五日付でした、別紙目録一の「従前の土地」欄記載の土地に対する換地として、同「換地」欄記載の土地を指定した処分及び別紙目録二の「従前の土地」欄記載の土地に対する換地として、同「換地」欄記載の土地を指定した処分をそれぞれ取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  広島圏都市計画事業(広島平和記念都市建設事業)高陽第一土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)の施行者である被告は、原告に対し、昭和六〇年一月二五日、別紙目録一の「従前の土地」欄記載の土地(以下、別紙目録一、二の各土地を個別に表示する場合には、単に山田谷、原田あるいは法内○番という。)に対する換地として、同「換地」欄記載の土地を指定する処分(以下「本件第一処分」という。)及び別紙目録二の「従前の土地」欄記載の土地に対する換地として、同「換地」欄記載の土地を指定する処分(以下「本件第二処分」という。)をそれぞれ行った。

2  しかし、本件各換地処分は土地区画整理法八九条に定める照応の原則に反し、違法である。

(本件第一処分について)

(一) 原告の従前地は、別紙図面記載のように、全体として東方及び南方を主要道路に接する角地の一区画をなしていたが、本件換地処分により、原告は、母屋の敷地となっていた角地部分を失い、土地全体がT字型に変形してしまうという著しい不利益を被った。

(二) 他方、本件土地区画整理の評価委員であった出宮守は、従前地別紙図面記載の久保田一六九番四の土地(実測面積345.36平方メートル)の換地として同図面記載の法内四四番二の土地(実測面積571.10平方メートル)を取得した。出宮に対する右換地は、面積で六五パーセントの増歩、権利価格で九八パーセント増となっているのに対し、原告に対する換地は、面積で九パーセントの増、権利価格で八パーセントの減となっており、出宮は原告に比し著しい利益を受けている。

(三) 被告は出宮に故意に右のように著しく利益となる換地処分をするため、次の(1)、(2)のように、本件区画整理の換地設計基準及び土地評価基準に違反し、その結果原告に右のように著しく不利益な換地処分をした。

(1) 土地区画整理法八九条が、照応すべきものと定めている位置、地積等の諸要素が最も容易に照応する換地は従前の宅地をそのまま指定する原位置換地であるから、右法は、原位置換地を原則的なものとし、道路、公園等の公共用地の確保のため右原位置換地が不可能なとき、例外的に飛換地を認めていると解すべきである。換地設計基準も、七条一項で、換地は原位置又はその付近に定めるものとし、それが事業の施行等の特別の事情により困難なときは、他の位置に定めることができると規定している。原告の従前地のうち、山田谷一六四五番一、二、同一六四六番一、二の四筆は原告の母屋の敷地になっていたが、本件区画整理の目的の一つであった県道三七号線の拡幅工事によって、右敷地のほんの一部(約70.45平方メートル)が右道路予定地となるだけであったから、右土地の利用状況、原告の従前地全体が一区画になっていた形状等からみて、右設計基準の規定に従って、原告の従前地について原位置換地すべきであった。他方、出宮の土地は県道の予定地であったから原位置に換地を定めることが困難な場合に該当するので、落合小学校の跡地に飛換地すべきであった。しかるに、被告はこれをしないで右設計基準に違反した。この点について、被告は、拡幅前の県道三七号線に面して土地を所有していた者に対しては原則として拡幅後の県道三七号線に面する土地を換地したとして出宮に対する換地を合理化しようとしているが、このやり方は、右県道付近の土地所有者は殆どすべての者が次々と影響を受け、従前地と異なる場所に押しのけられるので、合理的とはいえない。

(2) 右法八九条の定める照応の原則は、憲法二九条三項の規定からみても、何よりも従前地と換地との価格が照応しなければならないことを意味する。簡単に言えば、従前地の路線価に従前地の地積を乗じて得られた基準指数と換地の基準指数(換地の路線価×換地地積)を等しくすることであり、本件換地設計基準及び土地評価基準も、右基準指数の算出過程で加算地積、宅地修正率、共通負担率等が考慮されているが、基本的には右方式により照応の原則を貫いている。そして、この方式を適用するためには従前地の路線価と換地の路線価の両方が必要である(右設計基準一五条、一六条、土地評価基準二条も右両方の路線価が必要であることを規定している。)。換地確定計算書の記載項目からみても、右両方の路線価がなければ従前地及び換地の基準指数の計算ができない筈である。しかるに、被告は右設計基準一六条に規定する原位置における基準路線価は原位置に換地した場合の想定上の換地の基準路線価を意味するとし、明確な基準のないまま、換地の路線価を使って従前地について恣意的な評価をした。そのため、原告の従前地は出宮の従前地の二分の一以下に不当に低く評価され、原告は前記のような換地処分を受けたのに対し、出宮は前記のように著しい利益となる換地処分を受けた。被告は、出宮が県道三七号線沿いに所有する土地全体について総合的に照応を図ったと主張するが、価格照応の原則は適当な規模の画地単位に貫かれるべきであり、恣意的な範囲の従前地と換地とが照応していれば良いというものではない。また、出宮の換地全体についてみても、従前地を適正に評価すれば、出宮は金四四八六万円の徴収金を支払わなければならないのに、従前地について被告が恣意的に不当な評価をしたため、出宮は金七一万四〇〇〇円の徴収に止まり、差し引き約金四四〇〇万円もの過当な換地処分を受け、それがそのまま原告の不利益になっている。更に、本来なら前記のように従前地と換地の各基準指数は一致すべきであるのに、全てこの指数がくい違っており、換地地積が右指数に基づかないで決定され、価格が照応していないというべきである。

(本件第二処分について)

山地部の平均減歩率は六五パーセントであるとされていたのに、原告の所有地に対する換地処分は平均して80.2パーセントの減歩率になっている。原田山地区内の土地はすべて山林であり、登記面積より実測面積の方が広い繩延び地域であるのに、被告は各筆毎に実測しなかった。また、被告は、広島市水道局への譲渡地について昭和四九年八月三〇日付で作成した地積測量図に基づいて地積を算出すべきであるのに、何ら根拠のない昭和五〇年三月二七日付実測図なるものを基にして算出したため、被告の主張するC区域の面積は不正確なものとなったのに、これを基に登記面積で按分して従前地の基準面積を決定した。このため、原告の所有する原田四七八番一の土地についてのみ実測面積を下回る面積を従前地として換地し、原告に対し右のように著しく不利益な換地処分をした。

二  請求原因に対する認否

1  同1は認める。

2  同2は争う。ただし、山地部の平均減歩率が六五パーセントであることは認める。

三  被告の主張

1  本件第一処分の適法性について

(一) 原告の従前地七筆は約二メートルの段差等により一体的に利用するのは困難であり、実際にも原告の住居の敷地、賃貸アパートの敷地及び畑の三か所に区分して利用されており、一つの画地ではなかった。被告は、従前と同様の土地利用が可能となるように換地を指定するため、適当な従前地を合併換地した。別紙図面記載のように、従前地は、幅員約1.5メートルの里道に面する不正形な土地、幅員3.6メートルの道路に面する土地あるいは直接道路に面していない土地であったが、換地の法内四四番一の土地は幅員六メートルの二つの道路に面するほぼ長方形の角地、法内四四番二〇の土地は幅員六メートルの道路に面する長方形の土地、法内四四番三及び同番二一の土地は幅員二五メートルの拡幅された県道三七号線に面する土地であり、従前地及び換地の右位置、面積(従前地合計1467.12平方メートル、換地合計1277.41平方メートル)並びに、付近の県道三七号線の拡幅整備及び岩上川の河川改修等公共施設が整備改善され、環境等が著しく良好となっていることなどを考慮すれば、各換地はいずれも従前地に比し利用価値は著しく増進し、十分照応している。

(二) 被告は、出宮の従前地久保田一六九番四の土地に対し法内四四番二の土地を換地した。右換地処分だけをみれば、増し換地になっているが、右一六九番四の土地は拡幅前の県道三七号線及び幅員3.6メートルの道路(仮に、一部が河川であっても、本件事業においては土地評価上採光及び通風が良いこと等により道路に準ずる取扱いがされている。)に面した角地であり、また、出宮は拡幅前の県道三七号線沿い及びその周辺に多くの従前地(総実測面績5547.06平方メートル)を所有し、各筆の従前地すべての土地に個々に照応した換地を指定することが換地設計上困難であったため、総合的に照応するように換地することとし、更に、換地が角地の場合、角地としての宅地の利用価値の増進等も考慮したうえ、出宮に対し前記換地を指定したのである。出宮の従前地全体と換地全体を比較すると、減歩率は約21.4パーセントとなっており、総合的に照応が図られている。出宮に対する換地のために原告が不利益を受けたということはない。

(三) 本件第一処分は原位置の付近に定めた換地であり、換地設計基準に違反していない。拡幅前の県道三七号線に面し、同道路の拡幅によりその敷地となった従前地に対しては原則として拡幅後の県道三七号線に面するように換地するのが照応の原則及び公平の原則に適うのであり、右敷地となった従前地を価値の低い場所に一律に飛換地するのは逆に右原則に反する。

(四) 被告は本件事業の換地計算を換地設計基準及び土地評価基準に基づき、地積式を基本とし、更に土地の評価を加味する方法により行った。この方法によれば、従前地の評価は、各従前地に照応する換地を想定し、その想定上の換地を整理後の路線価で評価することにより行うものである。従前地のもつ価値は基本的には地積により測定し、実際の換地との地域的地価較差を是正するために整理後の路線価を用いて想定上の換地と実際の換地の評価を行うのである。これにより事業の施行による価値の増進を公平に分配することができるから、右方法は十分に合理性を有するのであり、原告主張のように従前地の路線価がなければ換地計算ができないというものではない。

2  本件第二処分の適法性について

(一) 山地部の土地の平均減歩率は約68.5パーセントであるところ、第二処分については、基準地積12802.94平方メートル、換地地積3043.26平方メートルであり、その減歩率は約76.2パーセントである。しかし、従前地九筆の土地のうち、六筆が山林、残る三筆は幅員一メートル程度の里道に面し、かつ、谷間の奥部分に存する細長い不正形な田又は畑であったのに対し、換地として、本件事業の施行により新設された幅員六メートル又は九メートルの道路に面する宅地計七筆の土地(うち一筆は幅員六メートルの道路が交差する角に存する宅地)が指定され、更に、本件事業の施行により付近の道路等の公共施設が整備されていることなどその利用価値が増進していることを考慮すれば、右減歩率は決して過大ではなく、本件第二処分は照応の原則に則った適法なものである。

(二) 原告の従前地の基準地積は次の方法により決定した。

従前地九筆の土地のうち耕地部分三筆は実測面積である。残りの六筆は、山林部分をA、B、Cの三つの区域に分けたCの区域内の土地であるが、先ず、C区域の実測面積をトラバース測量によって求め、既に広島市水道局の資料により実測面積が判明していた土地の面積並びに施行者が実施した里道及び登記地積を基準地積とした墳墓地の面積を差し引き、残った土地は形状から耕地部分を境として大きく二分できたため、それを境としてイとロに区分し、図上測定によってイとロの面積を決定した。その面積を各区分内の土地登記簿地積の総計で除してそれぞれの比率を求め、その比率を各筆の土地登記簿地積に乗じて算出した面積を各筆の基準地積と決定した。その後原田四七八番の一部が施行地区の変更により施行地区外になったため、右四七八番を分割し、施行地区内を同番一、地区外を同番二とした。同番二の土地は境界がはっきりしていたため同土地を実測してその実測面積を当初の四七八番の基準地積から控除して同番一の準地積とした。

施行地区内の山林部分の各筆の境の明示が困難であったことを考慮すれば、右決定方法は何ら不合理ではない。また、被告は昭和五〇年三月二七日付で原告に対し従前地の基準地積を通知し、異議があるときは三〇日以内に基準地積の更正を申請することができる旨教示したが、原告は何ら更正の手続をしなかった。

第三  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  土地区画整理法八九条一項にいう換地と従前の土地との照応とは、土地区画整理はその性質上通常土地の区画、形質の変更を伴うものであるから、同条項に定める換地及び従前の土地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等を総合勘案して、換地が従前の土地と概ね同一の条件にあり、従前地の価格と換地の価格とが概ね等しくなっていることをいうものと解するのが相当である。そして、換地処分は施行区域内の多数の土地の権利者を対象としてなされるものであるから、右権利者相互においても公平でなければならず、したがって、換地の指定が施行者に認められた裁量の範囲を逸脱して著しく不公平になされたものであれば、右照応の原則を満たす場合であっても、違法になると解すべきである。

三  そこで、先ず、本件第一処分について右の点を検討する。

1  成立に争いのない甲第八号証の一ないし四、第一〇号証の一、二、第一四号証、第一五号証の一ないし五、第一七、第一九、第二〇号証(ただし、第一〇号証の二、第一四号証、第一五号証の四、五、第一九、第二〇号証についてはいずれも書き込み部分を除く。)、乙第三号証、第四号証の一ないし四、第一九、第二〇、第二二号証、換地処分前の本件第一処分の従前地付近を撮影した写真であることに争いのない甲第四二号証の一ないし四、乙第二号証の一ないし五、被告主張の写真であることに争いのない乙第一八号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第三〇、第三一号証、証人周藤準の証言により真正に成立したものと認められる乙第七号証、第九号証の一、二、第一一号証及び証人周藤準、同田尾幸雄、同河原清人の各証言を総合すると、次のとおり認められる。

(一)  本件土地区画整理事業は、被告が市街化の遅れていた広島市安佐北区高陽町大字玖、大字諸木及び大字岩の上の各一部面積約65.2ヘクタールの区域について県道三七号線(広島・三次線)の拡幅等道路、公園などの公共施設を整備して宅地の利用増進を図り、隣接の高陽ニュータウンと一体的に良好な市街地を形成することを目的として施行したものである。

(二)  原告の従前地七筆(実測面積、一六四五番一は122.52、同番の二は7.64、一六四六番一は一四一、同番二は451.52、一六四七番二は180.36、一六五〇番は340.57、一六四九番一は223.51、合計1467.12、単位はいずれも平方メートル)は、別紙図面記載のように南側は幅員3.6メートルの道路に、東側は幅員1.5メートルの曲折した里道に面し、西側及び北側は他の土地に接する一団の土地となっていたが、一六四六番一、二及び一六四七番二の三筆は原告の家屋の敷地として、一六四九番一、一六五〇番の二筆は賃貸アパートの敷地として、一六四五番一、二の二筆は不正形な土地であり畑としてそれぞれ利用され、右家屋の敷地と賃貸アパートの敷地との間には約八〇センチメートルの段差が、右畑との間には約二メートルの段差があり、右七筆の土地を一体として利用するのは困難であり、実際にも右のように三つの土地に区分して利用されていた。

(三)  県道三七号線はバスが通る主要な道路であったが、本件区画整理事業により別紙図面記載のように幅員九メートルから幅員二五メートルに拡幅され、原告の従前地の南側の幅員3.6メートルの道路及び東側の里道は廃止され、北西側及び東側に幅員六メートルの道路がそれぞれ新設された。被告は、本件区画整理事業の換地設計について必要な事項が定められた換地設計基準八条に基づき、換地する画地は、街区の長辺に沿って裏界線を定め、二列に配置することとしたが、被告は、拡幅前の県道三七号線に面して従前地を所有していた者には原則として拡幅後の県道三七号線に面する土地を換地することにしたため、整理後四四番二の土地は拡幅前の県道三七号線に面する従前地久保田一六九番四の土地を所有していた出宮守に換地し、従前地が拡幅前の県道三七号線に面していなかった原告にはその北西の四四番一の土地及び同土地の南西に隣接する四四番二〇の土地を換地した。そして、四四番三及び同番二一の二筆は一体として利用しうる土地であるが、当初、右二筆は、拡幅前の県道三七号線に面する従前地を所有していた蔵本節美に換地する予定であったが、同人が右土地の換地を希望しなかったため、被告は右二筆の土地を原告に換地した。その結果、全体としてL字型の土地になったが、四四番一の土地は北西側及び東側とも幅員六メートルの道路にそれぞれ約31.8メートル及び18.5メートルほど面するほぼ長方形の角地であり、四四番二〇の土地は幅員六メートルの道路に面する間口約14.8メートル、奥行約二〇メートルの長方形の土地であり、四四番三及び同番二一は拡幅後の県道三七号線に面し、両土地で間口約19.5メートル、奥行約24.5メートルの長方形の土地であり、現在原告は、四四番一及び同番二〇の土地は駐車場及びコンテナハウスの敷地として、四四番三及び同番二一の土地はビルディングの敷地として利用している。そして、右各換地の環境は道路の拡幅、新設、土地の整備等により従前地より一段と良好になった。

(四)  被告は、土地の評価の方法等について準拠すべきものとして定められた土地評価基準(昭和五一年七月二二日評価員承認)に基づいて、施行区域内について整理後の路線価を算定したが、それによると、別紙図面記載の位置における拡幅後の県道三七号線は一〇〇〇、その北西の道路(高陽区六二四号線)は四一〇、東側の道路は四六〇である。したがって、原告の従前地の位置における土地の整理後の路線価は全体が平均して七〇五になる。出宮の従前地久保田一六九番四の位置における土地の整理後の路線価は県道三七号線の敷地であるから一〇〇〇となる。原告の従前地の基準指数(換地設計基準の定める算式である「換地基準地積×(一―共通負担率(0.152))×原位置における基準路線価」に基づいて算出したもの)は、一六四五番一及び一六四六番二の合計が三九〇一二一、一六五〇番が二〇九七一四、一六四五番二、一六四六番一、一六四七番二、一六四九番一の合計が三六二六九八、以上合計九六二五三三であり、換地の基準指数((換地地積+地先負担地積)×基準路線価)は、四四番一(路線価は正面道路四六〇、側方道路四一〇)が三五七一〇三、四四番二〇(路線価四一〇)が一三九二七一、四四番三及び同番二一(路線価いずれも一〇〇〇)が合計六三三四四七、以上合計一一二九八二一である。右従前地と換地の指数はできるだけ等しくなるように換地地積を定めることにされているが、原告の場合換地の指数が一六七二八八多くなっており、これは、従前地を原位置換地したと想定した土地の評価額の約一七パーセント(167288÷962533)増に当たる。

以上が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  原位置換地について

換地はできるだけ原位置又はその付近に定めるのが照応の原則に適い、換地設計基準七条にも、「換地は原則として原位置又はその付近に定めるものとする。ただし、事業の施行により新たに造成される公共施設の影響その他特別の事情により原位置又はその付近に定めることが困難なときは、他の位置に定めることができる。」と規定されている。ところで、従前地山田谷一六四六番二及び一六四五番一の土地は法内四四番一の土地が換地として指定され、原位置に換地されていない。しかしながら、換地は前記認定のように街区の長辺に沿って裏界線を定め二列に配置することにされているので、別紙図面から明らかなように、拡幅後の県道三七号線に斜めになって存在する原告の従前地を、道路の敷地になる部分を除いて、そのまま換地として指定することはできない。そして、県道三七号線が幅員九メートルから幅員二五メートルに拡幅されたため、その道路の敷地となった土地が相当広大にあり、同土地も本件区画整理の区域に含まれていたので、右土地に照応する土地を換地として指定する必要があったところ、右土地については原則として県道三七号線から離れた場所に飛換地するのは、右土地所有者に著しい不利益を与えるので相当ではなく、拡幅前の県道三七号線に面する土地を所有していた者に対しては原則として拡幅後の県道三七号線に面する土地を換地として指定し、従前右県道に面していなかった者に対してはその北西の土地を換地する方が従前地と換地の位置が照応し、公平といえる。そして、本件換地の場合、右の方法で換地を指定しても、これにより右県道付近の土地所有者の多くが次々と影響を受けて換地が北西側にずらされる結果になる事実も認められない。また、原告の家屋が存在していても、同建物は法内四四番二の土地上に斜めに存在することになり、右土地が換地されても同家屋を存置したのでは同土地の効率的な利用を図ることは困難である。これらの事情を併せ考えると、拡幅後の県道三七号線に面する四四番二の土地は、原告の従前地一六四六番二の土地の原位置ではあるが、その南東で、拡幅前の県道三七号線に面していた久保田一六九番四の土地の換地として指定し、原告の一六四六番二の土地は一六四五番一の土地と合わせて右四四番二の北西に隣接する同番一の土地を換地として指定するのも、県道三七号線の拡幅によるやむをえない事情によるものということができる。そして、右四四番二の土地は右一六四六番二の土地の付近の土地ということができるから、右換地設計基準に違反するとはいえない。

3  路線価及び従前地と換地の価格の照応について

換地設計基準一五条及び一六条によれば、従前地の基準指数は、換地基準地積から共通負担地積を控除した地積に原位置における基準路線価を乗じて求めるのを標準とし、この指数を換地先の位置における基準路線価で除して算出した地積から地先負担地積を控除したものを換地の地積とすると定められ、土地評価基準三条には、路線価は、事業計画において定められた道路に付けることを原則とすると定められているから、右路線価は整理後の路線価をいうものと解することができる。右方式は、従前地を共通負担率で減歩してそれをそのまま原位置に換地するのを原則とする地積式の考えを基にし、その原位置換地が技術的な理由等でできず、他の位置に換地せざるをえなかったとき、双方の位置における路線価の違いを換地地積の決定に反映させようとするものである。そのためには整理後の路線価があれば十分であって、従前地についての整理前の路線価は必要としない。ただし、土地区画整理法一〇九条一項の減価補償金を支払う必要があるか否かを判断するために、区画整理事業の施行前及び施行後の土地の価額の総額の比較を路線価式評価法によりすることにすれば、整理前の路線価が必要となる。本件区画整理事業の場合、共通負担率(宅地)は0.152であるのに対し、総事業費約六一億円(乙第一九号証)を投じて道路、公園等の公共施設が整備され、これにより環境が一段と良好になっており、これに右乙第一九号証及び証人周藤準の証言を総合すれば、事業施行後の土地全体の価格の方が施行前より増加していることが認められる。そして原告の場合、前記認定のように換地の基準指数が従前地の基準指数を大幅に上回っているから、従前地と換地は価格において十分照応しているといえる(右上回っている部分については清算金によって調整されることになるのは勿論である。)。被告は前記認定のように右方式によって換地計算をしており、被告が原告の従前地を恣意的に評価し、不当に低く評価したことを認めるに足りる証拠はない。

4  従前地と換地との照応について

原告の従前地七筆は各筆毎に独立して利用されておらず一団の土地を形成し、換地も従前地を適当に合筆してなされているので、照応関係は従前地七筆全体とこれに対する換地全体とを比較して判断するのが相当である。

前記認定のように、従前地七筆の土地は南側が3.6メートルの道路に、東側が曲折した1.5メートルの里道に面したほぼ長方形の土地であったが、段差等によって大体三つに区分して利用されていたのに対し、換地は全体としてL字型の土地になったが、南東側は拡幅後の県道三七号線に約19.5メートルほど面し、北西側は幅員六メートルの道路に約46.6メートル、東側は幅員六メートルの道路に約18.5メートルほど面する土地であり、その土地の形状から二つ又は三つに区分して土地を利用することが可能であり、特に法内四四番三及び同番二一の土地は右県道に面し、ビルディングを建築して土地の高度利用が可能となっていること、従前地の実測面積は全体で1467.12平方メートルであるのに対し、換地は全体で1277.41平方メートルで減歩率は12.9パーセントであること、前記換地全体の基準指数は従前地のそれを大幅に上回っていること等前記認定の諸事情を総合勘案すると、換地は全体として従前地七筆の土地に十分照応しているということができる。

5  出宮守に法内四四番二の土地を換地指定したこととの比較

前記甲第一四号証、第一五号証の一、乙第九号証の一、第三〇、第三一号証、成立に争いがない甲第一一号証の二、第三七号証及び証人周藤準の証言によると、出宮守は拡幅前の県道三七号線に面して久保田一六八番一、同番七、一六六番六の三筆、その北西に隣接して一六七番一、一六六番一、同番二の三筆以上の土地(実測面積合計3283.60平方メートル)を所有し、同六筆の土地の換地として法内四四番四(実測面積2236.32平方メートル)を指定したこと、従前地である右六筆の土地の基準指数の合計は三二七九八九一であり、右換地の基準指数は二八九三一七五であること、久保田一六九番四(実測面積345.36平方メートル)の基準指数は三九〇九六四(角地加算しないで路線価一〇〇〇として計算)であり、右土地の換地の法内四四番二(実測面積571.10平方メートル)の基準指数は七八七一三二であること、前記六筆の従前地の整理後の路線価はいずれも一〇〇〇であることが認められる。

右出宮の従前地一六九番四と換地の四四番二の土地だけを比較すると、換地は、面積において六五パーセントの増歩、基準指数において約二倍になっているけれども、被告が右従前地の換地として右四四番二の土地を指定したのは、前記説示のように拡幅前の県道三七号線に面する土地に対しては拡幅後の県道三七号線に面する土地を換地として指定する方針によるものであり、また、前記六筆の土地と一六九番四の土地の従前地全体と換地の四四番二及び同番四の土地全体との照応関係をみると、従前地の面積は3583.96平方メートル、換地の面積は2807.1平方メートルとなり、減歩率は21.7パーセントであり、基準指数は、従前地が三六七〇八五五、換地が三六八〇三〇七となって殆ど等しくなり、全体として照応しているということができるので、一六九番四の土地の換地として四四番二を指定したことが、原告の前記換地と比較して出宮に対し特に利益を与えているとはいえない。また、右一六九番四の土地に照応するように右四四番二の土地の間口を小さくして面積をより小さな土地にして換地したとしても、それだけ四四番四の土地の間口を広くし面積を広くすることになるから、原告の利益となる換地に何ら結びつかない(右の結果、原告の換地の四四番三及び同番二一の土地が北東にずれることになり、かえって原告の換地全体の形がT字型になって原告に不利益となる。)。路線価についても、原告の従前地の半分の土地(南東側)については整理後の路線価が一〇〇〇となっており、出宮の右従前地の路線価が原告に比し高いとはいえない。更に、原告は、被告は出宮に対し金四四〇〇万円もの過当な換地処分をしたと主張するが、原告は右金額算出の前提を誤っており、右主張は理由がない。

以上によれば、原告に対する前記換地処分が出宮に対する換地処分に比し、著しく不公平であるとは到底いえない。

よって、本件第一処分は適法である。

四  次に、本件第二処分について検討する。

前記甲第八号証の一ないし三、成立に争いがない甲第一号証の一、第二四号証、第三〇、第三二号証の各一、二、第三三号証の一ないし三、乙第一四号証の一ないし六、証人周藤準の証言により真正に成立したものと認められる乙第八、第一〇号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一六号証の一、二、第二三ないし第二五号証、第二六号証の一ないし三、第二七ないし第二九号証、証人周藤準、同田尾幸雄の各証言及び弁論の全趣旨によると、原告の従前地九筆の換地の前提となる基準地積は、耕地部分である原田一七二一番一、二、一七二二番の三筆は、被告が実測して、一七二一番一は200.81平方メートル、同番二は566.62平方メートル、一七二二番は1074.98平方メートルと決定し、その余の六筆は山林部分であって、各筆の境界の明示が困難であったため、被告主張の方法によることとし、四七三番は2259.84、四七四番は814.40、四七五番は790.16、四七八番一は1891.51、四七九番は1045.50、四八〇番は4159.12(単位はいずれも平方メートル)と決定したこと、そして被告は昭和五〇年三月二七日付で原告に対し右従前地の基準地積を通知し、異議があるときは三〇日以内に基準地積の更正を申請することができる旨教示したが、原告はその手続をしなかったこと、前記耕地部分の三筆は幅員一メートル程度の里道に面し、かつ、谷間の奥部分に存する細長い不正形な田又は畑であったこと、被告は、本件事業の施行により、右従前地を含む一帯の山地を造成し、幅員六メートル又は九メートルの道路を新設したが、換地の七筆は右道路に面する宅地であること、昭和五〇年三月二七日付の実測図は広島市水道局が隣地の所有者の立会の下に測量したものであって、広島県土地区画整理協会が作製した昭和四九年八月三〇日付測量図より正確であることが認められ、右認定に反する証人河原清人の証言は前記証拠に対比して採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

別紙

処分目録一

番号

従前の土地

換  地

(一)

所在

広島市安佐北区高陽町大字玖字山田谷

広島市安佐北区高陽町大字法内

地番

一六四五番一

四四番一

地目

宅地

地積

九九平方メートル

六二五.六七平方メートル

所在

右同所

地番

一六四六番二

地目

宅地

地積

三七三.一九平方メートル

(二)

所在

右同所

右同所

地番

一六五〇番

四四番二一

地目

宅地

地積

二八七平方メートル

二九五.三七平方メートル

(三)

所在

右同所

右同所

地番

一六四五番二

四四番二〇

地目

宅地

地積

六.六一平方メートル

二三四.七六平方メートル

所在

右同所

地番

一六四六番一

地目

地積

一一九平方メートル

所在

右同所

地番

一六四七番二

地目

地積

一五二平方メートル

(四)

所在

右同所

右同所

地番

一六四九番一

四四番三

地目

宅地

地積

一九五平方メートル

一二一.六一平方メートル

処分目録二

番号

従前の土地

換  地

(一)

所在

広島市安佐北区高陽町大字玖字原田

広島市安佐北区高陽町大字法内

地番

四七三番

三三番一〇

地目

山林

宅地

地積

二一四五平方メートル

四八二.二九平方メートル

所在

右同所

地番

一七二一番二

地目

地積

四〇〇平方メートル

(二)

所在

右同所

右同所

地番

四七四番

三四番一一

地目

山林

宅地

地積

七七三平方メートル

四六四.九二平方メートル

所在

右同所

地番

四七五番

地目

山林

地積

七五〇平方メートル

(三)

所在

右同所

右同所

地番

四七八番一

二七番一二

地目

山林

宅地

地積

一九一七平方メートル

二九三.一一平方メートル

(四)

所在

右同所

右同所

地番

四七九番

二七番一三

地目

山林

宅地

地積

一〇五一平方メートル

二九四.二三平方メートル

(五)

所在

右同所

右同所

地番

四八〇番

三四番一

地目

山林

宅地

地積

四一八一平方メートル

五二七.七七平方メートル

右同所

二七番八

宅地

五〇〇.八二平方メートル

(六)

所在

右同所

右同所

地番

一七二一番一

三三番九

地目

宅地

地積

一四五平方メートル

四八〇.二九平方メートル

所在

右同所

地番

一七二二番

地目

地積

七七六平方メートル

右事実によると、被告が原告の従前地九筆について右認定の方法で基準地積を決定したことは何ら違法ではないというべきである。そうすると、従前地九筆の基準地積の合計面積は12802.94平方メートルとなり、これに対する換地七筆の実測面積の合計は3043.43平方メートルであるから、減歩率は76.2パーセントとなる。この減歩率は山地部の平均減歩率六五パーセント(この事実は当事者間に争いがない。)より高いけれども、前記認定の従前地九筆の土地の状況と換地七筆の土地の状況とを比較すれば、土地の価値としては概ね同一であると認められ、他にこの判断を左右するに足りる証拠はない。また、原告のみ他の者より著しく不利益に扱ったことを認めるに足りる証拠もない。

よって、本件第二処分も適法である。

五  以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉岡浩 裁判官 土屋靖之 裁判官 柴田美喜)

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